SP-THE DESTINY-
**EPISODE III-2**
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どうも、昼間の内に椿が何かやらかしたらしい。
堺と世良が警護の交代で夏木の部屋に行った時のことだ。
「今日からしばらくハードワークだ。みんなでこの後飯でも食っていけ」
堺が懐から財布を取り出すと椿が嬉々として「あざーっス!」と頭を下げた。ところが堀田がすっと間に立つ。後ろで赤崎が椿の後頭部をはたいていた。テロリストを一発でしとめる強さそのままで。
「いえ、堺さん。飯は行きますが、今日は椿の奢りですんで」
堀田の声に赤崎が頷いている。
堺は椿をちらりと見る。椿はしゅんとうなだれた。
「なんかあったのか?」
「そいつが俺の朝飯あらかた食っちまったんだよぉ」
気配に気づいたらしい夏木が寝室から出てきて言った。
「毒味しろって言ったらほとんど食ったんだ、こいつ」
堺は椿と夏木を見比べる。堀田が肩をすくめてみせた。それでなんとなく事情は察した。
堺は夏木のところに歩いていく。堺はそこにいるだけで威圧感がある。夏木は口をぱくぱくさせながら「な、なんだよお! もし毒が混ざってたらって思うだろう?」と悲鳴をあげる。
「大丈夫だって、言ったんスけどね」と赤崎は世良にだけ聞こえるような声で言った。
堺はごく丁重な言葉遣いで夏木に問いかける。
「夏木さん、毒味をすると言ったのはSPの判断でしたか?」
「……な、なんだよ。そりゃ、そっちのSPは大丈夫だって言ったけどさ。万が一のことがあったらどうすんだよ?」
まっすぐ堺に見つめられて、動揺しているらしい。しどろもどろで夏木は言った。
「夏木さん、どうか我々を信頼してください。SPは警護対象者からの信頼が絶対の武器になります。私たちはその信頼を武器にして、あなたを守ります。SPの言うことを信じて従ってください。そうしていただければ、我々はあなたを絶対に死なせたりしない」
「……」「……」「……」「……」
四人で自分たちの上司を見つめていた。
世良は誇らしさで胸がいっぱいになる。多分他の三人も同じだろうと思う。
(ホントに、これだから俺たちはあなたに命預けられるんスよ)
堺は常に誠実だ。SPという職務に誇りを持ってあたっている。警護対象者の安全を確保することが最優先だが、言うべきことはきちんとおそれずに誰に対しても申し立ててくれる。
その誠意は時に上から煙たがられるのかもしれないが、少なくとも堺のチームの四人にはまっすぐ伝わる。
ずっと堺とともに仕事をしていたい。
そう思っているのは世良だけではない。
夏木は「すまなかったよ……」とつぶやくとまた寝室に引きこもってしまった。
世良はその背中を見送る。
夏木の恐怖は想像するにあまりあるものがある。命を狙われたことのない自分には計り知れないプレッシャーと戦っているのだ。
「どうした? 世良?」
堀田が声をかけてくる。
「いえ……俺、なんかあの人のこと嫌いになれないんスよね。護りましょう、絶対」
堀田は笑って世良の方をたたくと「後は頼んだぞ」と言った。どうやら、堀田も同意見らしい。
堀田たちが帰ると、堺とは二人きりだ。
(なに、話そう……)
夜は長い。警護の緊張は解くわけにはいかないが、ただ不寝番をするだけの時間はいかにも長い。
なんとなく距離を置いて二人で立ち竦んでいる。
「……この前は悪かったな」
沈黙を破って、ぽつんと堺が言った。
「いえ。堺さん忙しいっスから」
「……埋め合わせはする。ここのところ忙しかったから、ろくに連絡もできなくてすまなかった」
「係長がどれだけ多忙かくらい、知ってます。俺、部下っスから」
「すねるなよ。俺が困る」
「俺も困ってます……じゃあ、その。埋め合わせ的な意味で、今、キスしていいっスか?」
「勤務中だぞ?」
「隠しマイクもカメラもないの、ちゃんと確認したじゃないスか」
「……」
世良は立っていくと、堺の唇に自分のそれを押し当てる。目を開けたままのキスは、なんだかお互いを探りあっているようだと少し切なくなった。
「……っ?」
ふいに、気配がした。
昼間ここに来たときは感じなかったそれだ。世良の緊張に気づいたらしい堺が息を潜める。
「ちょっと、外見てきます」
早足で扉に近づく。魚眼レンズで廊下の様子を確認すると、小さくドアを開けた。
隣の部屋のドアがちょうどのタイミングで閉まる。中国語でなにやら会話している断片が耳に飛び込んできた。
「……?」
鼻に国産たばこの残り香が漂う。
「どうかしたか?」
「中国で、ハイライトって売ってるんスかね?」
たばこの臭いにはハイライト以外に別の種類のものが混じっている気配はない。おそらく長年一銘柄だけを愛飲しているのだろう。世良のつぶやきに堺が反応する。
「調べておくか?」
「いえ、大丈夫っス」
イヤな感じがした。
(もしかしてここのことはもう、テロリストたちにばれてんじゃないのか?)
そして案外、夏木を狙う手はすぐ近くに潜んでいるのかもしれないと、世良はほとんど確信に近い思いを抱いた。
幸い、それから数日はそのまま大過なくやり過ごせた。
だが、緊張は高まってきている。いやな気配はまだ世良の中から消えてはくれない。
夏木は間違いなく、何者かに命を狙われている。
堀田チームに警護の任を預けた後、堺と二人で朝、警視庁に戻るのが日課となった。拳銃やシーバーなどを戻してからそれぞれの家に帰宅することが絶対の義務として徹底されている職業ならではのことだが、なんとなくこういうのは悪くないと思っている。
警護課の庶務を担当している黒田が姿を見せた堺に「お疲れっス」と四十五度のお辞儀をしてみせた。世良には「てめぇ、意味不明の領収書回してんじゃねえよ」と噛みついてくる。
全くいつもの情景だ。警護の予定はあと四日。だが、検察がうまく夏木を逮捕するシナリオを書けなかった場合、もう少し延長ということも十分ありえた。
今のところ、まだテロリストたちが具体的に動いた気配はない。
膠着状態だ。
堺が、ワイシャツのカフスボタンを留めながらさりげなく声をかけてくる。
「世良……この後、ヒマか?」
「いえ、帰って寝るだけっス」
夜の任務に備えて世良と堺は帰宅するシフトになっている。非常事態にはすぐ召集されるが、とにかく睡眠時間を確保しなければ長時間の緊張を強いられる任務に堪えられない。
「じゃあ、つきあえ。この前の埋め合わせだ」
「……っス」
時計をちらりと見るとまだ朝の九時前だ。この時間からチェックインできるホテルがあるのだろうか、と世良は思ったが、連れていかれたのはとあるマンションの一室だった。
「ここ……」
「俺の家だよ。さすがにホテルってわけにいかないだろう?」
世良が小さくガッツポーズをするのを見て、堺が目を細める。
半蔵門線で桜田門から少しいったところにある堺のマンションは、一見して広々としているのにものが少ないのが印象的だった。
焦げ茶のフローリングに白い壁。几帳面な性格らしく、部屋はほこりひとつない。
「いい部屋だけど。もの、少ないっスね……」
コンポと低いテーブルにソファ。それから仕事をするためのデスクとノートパソコン。飾り棚はあるものの、数冊の本が並んでいるだけだ。キッチンはほとんど使っていないのだろう、冷蔵庫とレンジはあるものの、鍋やフライパン、食器の類も外には出ていない。
奥に寝室が見えた。
「職業的に、朝家を出ても夜戻ってこれる保証がないからな。何かあっても片づけがしやすいようにしてある」
「それ、しゃれにならないっス」
世良は苦笑した。
世良の家は、日頃なかなか掃除が行き届かずものがあふれかえっている。対照的な住居だ。
立ったままキスをした。
「言っておくが、ウチにカツ丼の用意はないぞ?」
「さっき、モーニング一緒に食ったばかりじゃないっスか。とりあえず、一回分はそれでいけますけど。二回目分は、ピザ頼んでいいっスか?」
「そんなもんばっか食ってっと、いざという時に脂肪で重くなった身体が動かなくなるぞ?」
「平気っス。すぐ運動して消費しますんで」
世良が悪びれずに言うと、堺は「とりあえずシャワーくらい浴びさせろ」とため息をついた。
外は爽やかな朝だ。カーテンを引いたままの堺の部屋で抱き合った。
「ん……ぁ……っ」
甘く鼻を鳴らすようにして堺が喘ぐ。
堺の部屋にきたのは今日が初めてだ。
いつも堺が眠りにつくベッドで堺の身体を抱いている。それだけでクるものがある。
交代でシャワーを浴びた。それで同じ匂いを身体が放っている。堺が好んで使っているボディソープの香りは爽快で、昼の光によく似合う。
今もカーテンの向こうでは午前中の光が街に降り注いでいる。子どもたちが走り回り、会社員たちが仕事を始めたばかりの時刻だ。さっき警護を交代した椿などは、ひまを持て余した赤崎のいいおもちゃにされている頃だろう。堀田は適当にそれをいなす。
いつもの光景だ。
世良はといえば、堺の裸の胸を夢中で吸っている。
すぐに紅く腫れあがり、ぷっくりとした芽のようになっていた。堺は特に右の乳首を攻められるのが弱い。
世良に吸われ、軽く歯をたてられると堪えきれないといった様子で甘くうめく。指の腹でこねられるのも好きなようで、SPの任務中にシャツで擦れて勃ちはしないかと世良などは気が気でない。
胸をあめだまみたいにしゃぶりながら、堺のむき出しの股間に手を伸ばす。
胸をいじられながらそこを擦られるのも、堺は好きだ。
指がぬめる。手で包んで上下にしごくと腰が自然に揺れる。
「……今日、なんかいつもより早いっスね」
手の中にかえる感触に世良が微笑すると、堺が息を弾ませながら「久しぶりだからだ」と応える。
世良は堺をしごきながら、唇を重ねる。少し乾いた舌がたちまちからみついてきた。
横抱きに位置を変えると、ローションをたっぷり使って堺の内側に指を差し入れる。
「きっつ……」
キスをしながらそこに触れると、処女のようにかたくなに世良を拒む。
前回世良が堺と寝た日を数えると、この反応は少しうぬぼれてしまいそうになった。
辛抱強く、抜き差しを繰り返すと徐々に堺の身体が世良の指を思い出したようで、閉め出すかたくなさから引き込むような動きに変わってくる。
くちゅくちゅと卑猥な音がした。何度も抱いた身体の奥にあるスイッチに触れると、堺が大きく震える。
「堺さん……もう挿れたいっス」
「ん……」
堺の手が世良のそこに伸びてくる。もう相手の腹に触れるほどになっていたそこをしごいて更に鍛えようと試みる。
「もう、世良のは熱いな」
「っス。堺さんのっスよ」
「キスしながら挿れろよ。そっちのが感じる」
普段の堺を知る人間が聞いたら腰を抜かしそうなことを言う。セックスの時、堺はよくそうやって世良にリクエストをする。
世良としては精一杯堺の期待に応えるべく努力をしてきているから、おかげさまでエッチのバラエティが増えたと思う。
(まあ、鍛えられたテクの全てはあなたのもんなんスけどね)
世良は堺の両足を抱えあげながらそう思った。そこに熱をあてがい、ゆっくりと押し込んでいく。
堺の腕が伸びてきて首に絡んだ。舌が先にふれあい、それから互いに引き寄せるようにして絡めあった。
「ん……ふぅ……っ!」
先端が指でほぐした堺の内側に割り込んでいく。締め付けられているのに、逃すまいと内側に引き込もうとしてうねる。
堺の前に何人か知っている女の子とのセックスでこの感じを得たことは世良にはなく、自然に『魔性』という言葉が思い浮かぶ。
これで、警視庁きっての切れ者SPと呼ばれているのだから困る。
「すげ……堺さんの中……こんな……」
まだ外は午前の光でいっぱいだ。なのに二人でそれを拒んで部屋の中で夢中で抱き合っている。
世良の熱をいっぱいに飲み込んだ堺は、言葉さえ全部奪おうとキスを仕掛ける。
任務は続行中だ。あまり堺の身体を痛めつけるようなことはしたくない。
だが、世良に穿たれて悦ぶ肉に引きずり込まれていく。
息が苦しくてキスが外れると、喘ぐ呼吸を聞きながら世良は堺の身体に痕をつけていく。
喉元に、胸に、紅く熟れた乳首は特に強く噛んだ。途端、世良を飲み込むそこがぎゅっと締まる。
「あ……っ」
貫かれたまま、前を触る前に堺が達する。
「乳首、そんなにいいっスか?」
断続的に濃い精液がこぼれていく。指ですくって堺の腹に、胸に塗り込めながら世良が言うと堪えきれない甘い息が漏れる。
「濃いっスね。俺とこの前した時以来、もしかして自分でもしてなかったんスか?」
自身の精液を乳首に塗り込められ、堺が喘ぐ。ぞくんと歓びが世良の中で膨れ上がった。
(俺の……俺だけの……)
青臭い匂いを放つそこを、世良はまた強く吸った。堺が悦ぶと知ってそうした。
「ん……ぁ……っ!」
「大丈夫。俺、まだイッてないし。もっと突いてあげるし、吸ってあげますよ」
堺の身体を引き上げると、上に座らせたまま下から突き上げる。悲鳴のような声をあげて、堺がのけぞった。両手をベッドについて自分の身体を支えながら、世良の上で腰を振る。
世良は堺の腰を支えたまま、紅い乳首を吸いながら更に突き上げを強くした。
久しぶりの情交で乱れる堺を再びベッドに押し倒して、一番深くまで熱を差し込むと世良はその日最初の性を放つ。
まだ、堺の携帯は鳴らない。
それは、組み伏せた男がまだしばらくの間世良だけのものでいつづけられるということだった。
世良は堺の一番深い場所にダイブする。
結局、堺の携帯が鳴ったのは、世良が堺の中で二度目の遂精をした直後だった。
「……どうした?」
世良に好きに身体を舐めさせながら、堺は涼しい声で堀田からの電話に応えている。堺の甘い声を誰にも聞かせるつもりはないが、時折自慢したくなる気分になることもある。
ケットの中に潜り込み、今は形をなくしたそこを世良は丁寧に舐めていた。
堺とこうなるまでは、他人のそれにそんな愛撫を施すなど考えたこともない。
ちろちろと舌先だけで濡らしていく作業に世良は夢中になっていた。
「そうか。プールなら危険はそれほど多いわけではないからいいだろう。あんまりストレスを貯めすぎて、キレられてもことだからな。だが、人の多い昼間はだめだ。夜間のみ。それで譲歩してもらえ。俺と世良は八時にそっちに行く。部屋の検索を終えておくから、八時半には戻るようにしてくれ」
細かく指示を伝えると堺は携帯を切ってサイドテーブルに投げだした。
「夏木さん、どうかしたんスか?」
「プールをご所望だそうだ。世良、まだ足りないなら口でしてやる。さすがにもう身体がもたん」
「いえ、今ちょっといちゃいちゃしたかっただけっス。さっき、堺さん大分量少なくて薄くなってたし」
ケットから顔を出すと、堺が微妙な表情をする。その唇に触れると「少し寝ましょう」と前髪に触れる。
「ああ……」
堺は頷くと目を閉じた。
世良もそれに倣う。そうして、堺と一緒のベッドで眠るときに必ずみる同じ夢を見た。
そうして目覚めた時にはやっぱり……忘れていた。