SP-THE DESTINY-

**EPISODE II-2**




 緑川元総理は、長身で押し出しの強い人物だった。
 政治家の割にしゃれた無精ひげを蓄えており、総理時代に起きた外交危機を救った『日本の守護神』というニックネームなら、世良もよく覚えている。具体的にどんな偉業でその異名がついたのかまでは、残念ながらよく知らないが。
 現役総理でありながら独身であることも同時に有名だった彼は、屋敷に控えている家族や使用人たちに笑顔で「行ってくる」と手を振った。
 縁戚関係にあるわけでもない人々が一介のSPでしかない世良に深々と頭を下げていたのが印象的だ。
 きっと、彼らにとって緑川は大切な主人なのだと察する。
(今日は、当たり……かな?)
 素晴らしい人だけを警護できるわけではない。むしろ、VIPという種類の人間を「いい人だ」と思うことは極めて稀だ。
 差し回された公用車に乗り込むと、緑川は大人物らしい鷹揚な口振りで助手席に乗り込んだ世良に話しかけてきた。
「君……名前はなんていうんだ?」
「……世良です」
 訓練学校時代、後部座席は別世界だと思え、ときつく言われてきた。
 車の中ではあらゆる密談が成立する。
 あるいは、VIPたちの赤裸々な私生活もだ。それらを簡単にリークするような軽口の人間を、VIPたちは許さない。
 SPにとってもっとも重要な『警護対象者からの信頼を得る』という部分を放棄するようなマネは、していいはずがなかった。
 緑川はそこを遵守しようとしている世良に笑いかけてきた。
「いくら、SPの基本が『後部座席は別世界』だからといって、君は石ころでもなんでもないんだ。少し、話し相手になってもらってもいいか?」
「……はい」
 いい人なのだな、と世良は思った。警護をしていて対象を「いい人」か「そうでない人」かで区別することはありえない。だが、時々「どうしてこんなヤツを命をかけて守らなくてはいけないのか」とこっそり思うことはある。
 堺には決していえないが、時々そう思ってしまう。
「……世良は、恋人はいるか?」
「……はい。一応、たぶん」
 まさかそんなことを尋ねられるとは思ってもいなかった。面食らいながらも、すぐに浮かんだただひとりの顔を思い浮かべながら世良はうなずく。
「たぶん? ずいぶん自信がないんだな。でも気持ちはわかるよ。その人とは結婚するつもりでいるのか?」
「……できない、と思います。けど……」
「事情でもあるのか。でも、そこは俺にもわかる。そうだな。でも、結婚はできなくても生涯を添い遂げてほしいとそう思っている。違うか?」
「はい……」
 その人がそれを望んでいてくれたら、どんなに幸せだろうかと世良は思った。
 車は静かに道路を走っていく。交通状態は順調すぎるほどで、これだと予定の時刻より大分早く病院につきそうだと思った。病院の赤崎に連絡を入れると、それを聞いていた緑川は少し気鬱そうに息をつく。
「この入院と手術はただの検査だ。だが、結果次第で俺の人生は大きく変わる」
「……」
 総理大臣を二期連続で務めて当然と言われていた緑川が、あっさりとその座を浅倉に譲った理由として『健康面の不安』が取り沙汰されていたという話を世良は思いだした。
「実はね、この検査で何事もないと太鼓判を押されたら、俺はある人に求婚しようと思っているんだ」
「……そう、ですか」
 あまりにも意外な告白に面食らった。まさかそうくるとは思ってもいなかったのだ。
 緑川は少し頬を染めて言う。
「君と理由が同じかはわからないが、残念ながら結婚はできない。だが、生涯を添い遂げる伴侶として迎え入れたい。周囲を説得するのに時間がかかっている内に、今度はこっちの身体の方が要検査という事態になってしまってね。でも、今日で全部カタがつく」
「……はい」
「指輪も、用意してきたんだが。唐突だと思われるかな?」
 思わず世良は笑顔になった。
「相手の方がどんな方かは知りませんが、喜んでもらえるといいですね」
「ありがとう。君も相手とうまくいくといいな」
「ありがとうございます」
 バックミラー越しに、恋する二人の男は目配せをしあった。



 病院につくと、先着の赤崎が担当医と看護士と共に迎えてくれた。
「……っ?」
 世良は一瞬、くらりとめまいに襲われる。
 はっとしてあたりを見回すが、特に不穏な様子はない。
(気のせい?)
 心持ち、警戒心が強まる。
「緑川先生! 今日は誠心誠意勤めさせていただきますので」
 医師が緊張しきった顔でVIPを出迎えている。
「いいよ、いつもの通りで。あなたは、俺が一番信頼している医者だ。ああ……殿山さんもいてくれるならもっと安心だ。ほんの数日ですが、お願いします」
「はい。三日間、専属でつかせていただきますのでよろしくお願いします」
「……」
 世良は、緑川と殿山と呼ばれた看護士とのやりとりを見ていた。
 殿山は地味で目立たない雰囲気だが、しっかり者で仕事ができるタイプなのだろう、緑川が絶大な信頼を寄せているのがわかる。
(なんか、緑川さんの目が優しいなあ)
 薄いピンクのナース服は、柔らかな印象の殿山によく似合っていた。
 殿山も優しげに緑川を見つめ返している。
(うん、なんか白衣の天使、って感じだ)
 もしも自分が搬送されるようなことになったら、ここを指名しようと密かに世良は心に決め、警察関係者は問答無用で警察病院送りだったことを思い出した。
(こういう看護士さん、いたっけ? いないよなあ、あそこには)
 東東京病院はそう大きな病院というわけではない。
 地上五階建てで敷地面積もそこそこあるが、政治家御用達の大学病院などと比べるとやはり規模も小さい。緑川についてエレベーターホールに向かう時、世良は各階の案内図をさらっと記憶した。
 やはり、総合病院として一通りの機能を備えてはいるが元総理が通うにしては小規模だ。
 緑川はよほど厚い信頼を寄せているのだろうと、世良は納得する。
 今日はなかなか順調だ。
 無事に病室に入ってしまうと、常に時間に追われている政治家らしく、予定の手術開始時間よりも早めに手術室に入ることになった。
 どうやら緑川たってのリクエストらしく、世良は先ほどの車中での会話を思い出しなんとなく元総理の心持ちを理解した。
 赤崎と世良は手術室前までつき従い、その後は手術室の前で警護に当たることになっている。
 体力には自信があるらしい元総理が自分で歩いていって手術室に消え、主治医が続いて室内に入ってしまうとしばらくはやることがなくなる。
「せーのぉ!」
 というわけでじゃんけんだ。
 勝った方から交代で外に食事をしに行くと言うことになった。攻防は三度繰り返され、世良が勝利する。
「あーあ……世良さんにじゃんけんで勝ったことないや、俺。どうぞ、メシ行ってきてください」
 ふてくされて、赤崎が手術待ちの家族用に用意された長いすに腰を下ろす。
「俺、じゃんけんほぼ無敗」
「なんスかそれ? 可もなく不可もない特技っスね。いいから、さっさと行ってきてくださいよ。手術終わるまで俺たち、何にもやることないんスから」
 赤崎がしっしっ、と手をはらってみせた。だが、世良は勝ちはしたものの、一瞬どうしようかと迷ってその場に立ち尽くす。
「……どうしたんスか? また頭痛いんスか?」
「……なんかこう、ヤな予感すんだよ。胸の奥がざわざわすんだ」
 赤崎はうんざりとした表情を作った。
「病院スよ、ここ? いくらなんでもテロリストが病院襲うなんてリスク高いし、難易度高いし、ハリウッド映画でもない限りないっスよ。とっととメシ行ってさっさと帰ってきてください。俺の休憩時間短くなるじゃないスか」
 言われてそれもそうかと納得する。昨日の検査結果に敏感になっているだけだ、きっと。
「……だよな。じゃあ、行ってくる」
「途中でかわいいナースいたらチェックしといてくださいよ。俺、巨乳より美乳派っス!」
「わかった、わかった」
 世良は苦笑して、手術室を後にする。
 赤崎にはああ言ったものの、やっぱり世良の胸の奥のざわつきは徐々に強くなってきていた。
(……クソッ)
 すぐそこに、危険な爆弾があるようなそんな予感だ。わかっているのにただ目につかないだけ。そんな不安がはらってもはらってもまとわりついてくる。
 病院の正面玄関を通って外に出た。
 ロビーをさりげなく伺ってみても、怪しい気配はない。
 世良は背後を振り返りながら歩く。そうして、やがて立ち止まった。
「……なんか、こう。離れんのすげぇ、やだ」
 一端は病院の敷地を出てみたものの、どうしても後ろ髪を引かれてならない。
 緑川の顔が思い浮かんだ。
 この検査手術が終わったら、求婚したい相手がいるという。
(マルタイによって差をつけるつもりとか、ないんスよ? 堺さん)
心の中でいいわけをする。
(けど、今は休憩中なので……ちょっとだけえこひいきさせてもらいます。俺、なんか緑川さんに告白させてやりたいし)
 一国の総理を務めたことのある人間が、車中で見せた表情に心動かされた。堺が聞いたらきっと怒るだろう。それでも、と思える人物を警護できる機会がいかに少ないか、この数ヶ月で思い知ったせいかもしれない。やはり、堺に知れたら大目玉を食らう。
(やな感じすんのは、ホントなんで……このまんまじゃ落ち着いてメシ食えないんで。それも、理由っスから)
 目の前にはいない堺にいくつものいいわけを並べる。食事は大急ぎでかっこめばいい。それで余る分の時間を、もう一度だけ検索にあてよう、と思った。
 その時だ。
 これまでにないほど強いイメージが頭の中に突然浮かんだ。
 数名の黒づくめの男たちだ。誰もが目出し帽を被っていて、容姿はわからない。その内の一人の目を通しての情景がぐるぐると回る。先ほど緑川が入った手術室の扉を強硬突破し、手術台の上の元総理こめかみに拳銃を突きつける。
 頭蓋骨の感触がごりっと銃口から伝わる。

「……っ!」

 早足はすぐ駆け足になった。病院の入り口を目指して、世良は駆けだしている。
 ふと、花壇の土を入れ替えようとしている脇にさしかかる。黒土の上にくっきりと足跡が残っていた。
 妙にざわつく胸が、急いでいるはずの世良の足を止めさせた。
 その場に跪いて検分してみる。
 滑り止めが深く刻まれた靴跡は左右均等に体重がかかっていて、歩幅も定規で測ったよう同じ分ずつ開いている。
「……軍人? ぽいよな……」
 日本にはもっとも縁のない職業のひとつだ。それが、今日の今日に限ってこの病院を訪れている。
 これが、偶然といえるのか。
「……!」
 世良はまっすぐ入り口から入ってエレベーターホールに向かう。
 見れば、二機ある内の一つは修理点検中となっている。さっき総理についてきた時にはそんなことはなかった。
 いやな予感がますます募る。
 もう一機の方も最上階で停まったまま降りてくる気配がない。すぐにあきらめて、階段を使うことにする。
 二階に向かう階段の途中だった。
 館内放送を知らせるチャイムが鳴った。

「東東京病院に来院中のみなさんにお知らせします。ただいまを持ちましてこの病院は、テロリストである我々に占拠されました。おとなしく指示に従ってください。まずは、一階ロビーに移動を開始してください」

 冷静な声だった。
 自分がしでかしている犯罪に酔っているわけではない。だからタチが悪い。
(しまっ……!)
 入院患者も例外ではない、危篤患者と手術直後以外の人間は全員集まれと命令している。
 階段から様子をうかがえば、すぐ上のフロアでテロリストの一人らしき男が来院者を追い立てている。
 さらに館内放送が入った。
「業務連絡。発砲を許可する。抵抗するものは、遠慮なく排除してよろしい。また、命令を無視して隠れている者がいないかどうか、徹底的に探すように。ベッドの下、トイレの中、人が隠れることができる場所は全て確認しろ」
 あちこちで悲鳴が聞こえる。
(この格好じゃ、まずい……)
 拳銃を所持し、シーバーを身に付けていては見つかった時点で終わってしまう。
(拳銃隠して、もしかしたら病院に入る時に顔も見られてるかもしれないから……変装も……)
 世良はするするとテロリストたちの視線を避けて、目当ての場所を探しにいく。
(館内放送が入ってるってことは、赤崎はもう拘束されたか最悪排除されてるか……)
 口を開けば生意気なことしか言わないが、あれでも年齢的には後輩にあたる。世良は無事を祈りつつ、ようやく見つけた職員の更衣室に入り込む。
 まず、なによりも必要なのは情報だ。
 テロリストたちが何人いて、どういう陣容でいるのか。赤崎の身柄がどうなっているのかも確かめたい。そして何よりも警護対象者の安全が今この時点で保持されているのか。
 そこを確認してから、どう動くべきかを考えようと思った。
(緑川さんをただ殺すのが目的なら、こんな面倒なことはしない)
 殺すだけなら警護についている赤崎を排除して、さっさと手術室を制圧し、緑川の命を奪って逃走すればいい。何も病院ジャックなどという面倒なことをする必要はない。
 緑川が生きているのは間違いない。世良はそう確信した。
 手近のロッカーのドアを開けると、目当てのものが見つかった。
 シーバーと拳銃、それから身分証明と、襟章のついているジャケットを手早くはずしてロッカーにしまう。代わりにぶら下がってた白衣を羽織った。
 ふと、扉の内側に据え付けの小物入れが目に入る。
「いいもん見っけた……」
 それはフレームレスのめがねだった。かけてみると、度が強くてくらくらするが、いつものめまいに比べたらどうということもない。ついでにワックスと櫛で髪の毛を撫でつけて、オールバックにしてみる。
 もしかしたら病院に入った時に顔を見られているかも知れないが、これで一見しても気づかれることはないだろう。
「特殊警棒は、いけるな……」
 白衣がちょうど腰のあたりを隠してくれる。銃のホルスターをつけることはさすがに無理だが、これくらいなら大丈夫そうだ。
 世良は一度はロッカーにしまった警棒を腰に装着し直して白衣を羽織る。
 その時だった。
「こんなところで何してるんだ? 殺されたいのか?」
「……っ!」
 ロッカーの扉の向こうで、拳銃を構えた男がにやにやと笑って世良を見ている。
 ぎょっとして、警棒にかかっていた手をそろそろとはずしてホールドアップした。
「お前、今腰のポケットに何を隠した? ゆっくり出せ」
 抜かりなく銃を構えたまま更衣室に入ってくる。腰の警棒が見つかるのもまずいが、ロッカーに隠したものを見つけられるのはもっとまずい。テロリストに拳銃を渡すわけにはいかない。
 内心冷や汗をかきながら、指で腰ポケットを探った。
 テロリストはじりじりと寄ってくる。世良はさりげなくロッカー扉の前に立つと、身体で押して閉めてしまう。注意がロッカーに向かないようにと、指に触れた小さな固まりを差し出した。
「……携帯かよ。寄越せ」
「……」
 もちろんロックはかけてあるが、あの機械の中にはこれまで堺から受け取った誘いのメールが全てシークレット扱いにして保存してある。もちろん、今日配置につく直前のそれもだ。
 少々惜しい気がしたが、背に腹は代えられない。
(後で、取り返す)
 世良は男の顔をしっかりと記憶した。
 そのまま引っ立てられるようにして一階のロビーに連れて行かれる。既に全員がそこに集められているようだった。
 半分ほどの人数が、テロリストたちに指示をされて入り口に目張りをしたり突入の入り口になりそうなところに机やイスでバリケードを作らされている。
 世良を連行してきた男は、世良を人質の集団に合流させるとすぐ、階段を使って上に登っていった。おそらく世良が変装をした三階フロアの担当なのだろう。見る限り、このフロアには二人のテロリストが配置されているようだ。
 世良は素早く見回して、人質の中に赤崎と、緑川の手術チームのメンバーが含まれていないことを確認する。
 この様子だと、無差別にとにかく人を殺したいタイプの犯行集団ではなさそうだ。
 さりげなく人質の一番後方にしゃがんで世良はもう少し様子を見守ることにする。バリケードは程なくして完成した。
「よし、次はこの袋の中に持っている携帯電話を入れていけ。隠すヤツがいたら一人につき倍の人間に制裁を加える」
 ほとんどの人間がおとなしく電話を差し出したが、中には抵抗を試みる者もいて、容赦なく予告通り制裁を加えられる。すぐに反抗の炎は燃えつきた。
 世良としては人質たちには「頼むからテロリストたちを刺激しないでほしい」のだが、そのことを伝えようもない。
(まだ、動けない……)
 人がテロリストに殴られる光景を見ても、動くわけにはいかない。世良は唇をかみしめた。
 ほどなくして、背後ですずやかな音が鳴った。振り返ると、上の階で停めていたらしいエレベーターの扉が開いて中から人が三人降りてきた。
 一人は銃を他の二人につきつけたテロリスト、もう一人は看護士。そして、赤崎だ。
 それを見て世良は胸をなで下ろした。
(赤崎……無事だったか。それと、あれは、確か……緑川さんを迎えに出てきていた看護士の人だ)
 拳銃をつきつけられたまま赤崎と一緒に一階の奥の部屋に消えていく。程なくして、看護士だけがテロリストに連れられてロビーに戻ってきた。
「この辺にいろ」と、指図されて最初にうずくまっている患者たちに「大丈夫でしたか?」と様子を尋ねては、背中をさすったり脚をマッサージしてやったりしている。
 やがて、視線が世良の方に巡らされ、ぴたりと止まった。世良は人差し指を唇にあて「騒がないように」と合図を送る。
「……!」
 胸に『殿山』とネームプレートをつけた看護士は、テロリストの様子を伺いながら、そうっと世良の側による。
「緑川元総理は無事ですか?」
「はい。手術中です」
 それを聞いてひとまずほっとする。
「五階にテロリストは何名いますか?」
「二人です」
「もう一人のSPはどこに?」
「そこの奥にある、物理療法室に監禁されてます」
 先ほどの赤崎は、自分の足で立ってしゃんとして歩いていた。あの様子ならばひどいけがは負ってはいない。貴重で、この上もなくありがたい戦力が確保できるということになる。
(それに)と、世良は目の前にいる殿山を見た。この状況下で世良の質問に冷静に応えてくれている。聡明で、病院内のことに熟知している殿山にもこの際協力してもらうしかないだろう。
 現状と戦力を計算しながら頭の中でおおざっぱな計画をたてる。堺のそれとは比べものにならないほどずさんだが、理には叶ったやり方だと世良は思った。
(足りなきゃ赤崎に考えさせりゃいいか)
 さっき連行されていった赤崎の顔には赤黒い痣があった。テロリストに制圧された時にやられたのだろう。おそらく、今、頭の中には復讐の方法が刻一刻と積みあがっているはずだ。
 世良はちらりとロビーのテロリストを観察する。
(二人は多いな。一人にならないかな。そうしたら……)
 このフロアから、静かに、テロリストたちに気づかれないように制圧していく。
 こいつらが緑川を狙ったのは明白だがその目的がわからない。手術中の元総理をまだ生かしているということは、命ではない別のものが狙いなのだろう。
 それが何かについては、世良にはどうでもいいことだ。
 まだ、緑川の命は奪われてはいない。このテロリストたちが目的を達成して病院をでる前に片をつけなくてはならない。
 この時点では手を出していないだけで、テロリストたちが手術直後の緑川を盾にして逃走を図ろうとしているのは明白だ。
(緑川さんには、手術の後で大仕事待ってっし)
 少年のように告白の不安を口にした元首相のことが、世良はもう大好きになっている。
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