雪の日

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 ほんの数分の道のりなのに、慣れない雪道を歩いていたら倍以上はかかってしまった。
 なんとか今日も誰とも出くわさずに部屋に戻ると、身体が完全に冷えきっていることを急に自覚する。
 部屋の中も一日暖房がついていなかったから、外とそんなに変わらない温度だ。
 あわててエアコンをつけた。芯まで冷えて、さっきの熱燗とかそんなものがひとつも残っていない。堺さんに風邪なんかひかせられない。
「風呂、今お湯溜めてますから」
「ああ」
 俺はちらりと堺さんを見る。目があった。
「すぐ、風呂できますから、そしたら堺さん先に……」
 息を飲む。今日はもう、どれだけひくようなこと言ったからって怒らせて「帰るぞ」と切り札を出されることもない、と思いたい。
「……えと、その……一緒に……とか、どうっスか? 俺も結構冷えた、し……」
 一瞬堺さんが黙りこむ。
 やっぱ、失敗したかな。と次の叱責を俺は覚悟する。
 だけど。
「……いいんじゃねえの? お前だって、風邪ひくわけにいかないだろ?」

 外から戻った身体は完全に冷えきっていて、それは堺さんにとっていい口実になる。

 俺は大事な法則をひとつ発見した。

 真夜中、二人で浴槽に浸かった。
 家のバスタブはそんなに大きなわけじゃない。大の男二人で入ると、一気にお湯が溢れて排水溝に流れこんでいく。
 互いに手足を縮こませるようにして、向かい合って入った。
 冷えきった肌がお湯の温度を一気に取り込もうとしてじん、としびれる。それでもまだ皮膚の下の芯が冷たいのだと、触れあったところからわかる。
 堺さんを抱くようになってからしばらく経つ。
 裸なんて何度も見せあってるのに堺さんは借りてきた猫みたいだ。改まってこんな風に一緒の湯船に浸かったのははじめてだったな、と俺は気がつく。
「堺さん、こっち来てください。ウチの風呂、狭いから向かい合ってるとやっぱちょっとキツい」
「……」
 一人なら一応足を伸ばせるくらいはあるけど、二人は無理。だから、堺さんを後ろから抱き抱えるような姿勢に身体を入れ替える。
 じゃぶん、と大量のお湯がまた少しこぼれた。
 正直言えば、俺よりも堺さんの方がガタイはいいから、この体勢はきっとほかの誰かが見たら変に映るかもしれない。
 けど、俺はこの人を抱きたい。
 後ろからぎゅっと身体を抱いた。
「まだ、ちょっと冷えてるっスね」
「……少し、お湯足すか?」
「はい」
 蛇口から、細くお湯を継ぎ足していくと足下から温かい流れが巡回する感じがした。
 今日はなんだか一日水の中にいるような気がする。
「……」
 後ろから抱きしめたまま、少し身体をずらして肩口まで湯に浸かる。
 首筋にキスをした。
「痕……つけますよ?」
「やめろ」
「明日も、グラウンド使えないだろうし。そしたら、また今日のプールに一緒に行きましょう。あのトレーナー、すっげムカついた。堺さんのこと、やらしい目で見てた」
「そんなわけあるか」
「堺さん無防備すぎるっス。あれは絶対そうに決まってるっスよ。だから、堺さんにはもう相手がいるって、見せつけてやる」
「ばかか。それにあれは俺じゃなくて……」
 言いかけた堺さんの声が、ひっとせりあげてくるみたいな息で途切れる。
 お湯の中で、胸の先を俺が指でつねるみたいにしたからだ。
「お……前の方……ッ!」
 俺は堺さんの顎をねっとりと舌で舐めあげる。ひげが当たると文句をよく言われるけど、これがあるから堺さんはキスの時も俺の存在をすげぇ、意識してくれてんだって思う。
 俺は大事な人の身体に触れる。そのまま肌の全てに好きに触れる。
 バスタブからお湯がまた大量にこぼれていく。
 冷えきっていたはずの身体はもうすっかり熱くなっていて、のぼせそうだ。
 バスルームはまっしろい湯気でもうもうとなり、あがる息が二人分響く。
 小さく「世良…」と名を呼ばれ、俺は震えた。
「俺めあてだったわけないっしょ? すげぇムカついたから、俺はずっとあの野郎のこと睨んでたんスから」
 あごを捕まえて、覆いかぶさるようにしてキスをする。咥内で堺さんの舌が暴れるのがうれしくて、夢中で吸った。
 手の中であっと言う間に形を成したそこがびくびくと震えている。
「やめ……も……」
 堺さんの声が濡れている。この前一緒に寝たのは十日は前のことだ。
「あれから……自分でシたんスか?」
「あ……ッ、ッ……!」
 手の中に捕らえた熱がびゅくびゅく脈打つのがうれしくてたまらない。
「後ろ、イジったんスか?」
「……ね、ぇよ……ンな……ッ」
 年齢も上だし、身体も大きいのに、堺さんが俺の手で感じている姿は本当にかわいいと思う。
 少しだけ身体を浮かせるようにすると、俺はそこに慎重に指を這わせる。
「あ……ば……ッ! お湯……入ってく……ッ!」
「だって、俺、多分このままベッドに行ったらすぐ挿入れたくなるし……堺さん、後ろ、もうイジられるの嫌じゃないっスよね?」
「……っ!」
 明日の朝、正気に戻ったこの人にぶん殴られるかもなあ、とは思ったけどもっと奥まで堺さんに触りたい衝動は止められない。
「大丈夫っス。俺、ちゃんと……前もいじってるっしょ? 気持ちいいの、前の方だってことにして、いいっス」
 指を締め付けてくる内側が、さらにきゅっとしまる。こういう部分は堺さんは案外素直だったりする。ストイックに見えるのに、こういうギャップがあるのは、やっぱり燃える。
 俺はかなりしつこく、首筋にキスマークをつけていくことにした。
 昼間の水泳のトレーナーには本気でムカついた。絶対、明日見せつけてやる。
 この人が前の晩誰かに抱かれたってことを教えて、諦めさせてやる。
 堺さんが大きく喘ぐ。
 熱い呼吸が幾度もぱくぱくと開け閉めされる口から漏れる。
 そろそろあがらないと、俺ものぼせてしまう。
「あ……あ……あ……せ、ら……ぁ」
「いいっスよ。一回、抜いときましょう。俺、多分挿入れたらすぐイきそうだし。今日、一回だけとか、絶対ムリだし」
 俺から逃げるようにしてバスタブの縁にしがみつく身体に覆い被さるようにする。
 そのまま手の中で脈打つそれをしごき続けた。時折、爪の先端で先をくじると、悲鳴みたいな息があがる。
 それと同時に内側に収めた指がぎゅっと締め付けられて、堺さんが俺の手で感じていることがわかる。
 すっげぇ、うれしい。
 腕の中の身体がびくんと大きく震えた。
 透明な湯を、堺さんの体液が白く濁していく。
「はぁ……はぁ……」
 大きく肩で息をする、大事な人の耳たぶを軽く噛むと「部屋、行きましょう」と囁いた。
 堺さんは怒ったような目をすると、身体の向きを変えて俺にかみつくようなキスをしてくる。
 そのままバスタブから立ち上がり、脱衣所でバスタオルにくるまり、俺の部屋のベッドにダイブするまで、闇雲なキスは続いた。
 ケモノが目覚めた堺さんは、エッチだ。

 東京は珍しく大雪の夜だった。

 外はしんとして静かで、凍り付いている。

 カーテンは朝のままで開けっ放しだったから、もしもマンションの七階にある俺の部屋の寝室をどうにかして覗けるヤツがいたら、ベッドで絡み合ってる俺と堺さんを見れたかもしれない。
 愛の営み。ってふっるい言葉を今更持ち出してきて使いたくなるような、そんな感じ。
 すっげ、愛し合ってる。とか、そんな。
 エアコンが部屋をあっためるよりも早く、世界のどこより熱くなれる。俺と堺さんはそんなだ。

 外は一面の雪景色だ。明日はまだ真っ白だろうか。あさっては?
 俺は「いつまでも雪が溶けなきゃいいのに」と、サッカーに一生を捧げた人間にしてはかなりフキンシンなことを、本気で考えている。
 


<<元ネタ140字verはこちら>> 
caramel209さんは、「深夜の浴室」で登場人物が「好きにされる」、「猫」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai

 外から戻った身体は完全に冷えきっていて、それは堺さんにとっていい口実になる。真夜中、二人で浴槽に浸かった。裸なんて何度も見せあってるのに堺さんは借りてきた猫みたいだ。俺は大事な人の身体に触れる。そのまま肌の全てに好きに触れる。小さく「世良…」と名を呼ばれ、俺は震えた。



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