SP-THE DESTINY-

**EPISODE IV-4**




 耳に軽い音が聞こえる。銃声というのにはいささか軽い。
 だがその瞬間、学生たちに対して熱弁を震っていた総理の声が止まった。
「……っ?」
 思わず世良は振り返る。
 首相が胸を押さえて立ちすくんでいた。胸が真っ赤に染まっている。
(そんな……っ!)
 あわてて駆け寄った総理付きのSPからの交信が届いた。
「マルタイ被弾。ただし、ペイント弾。念のため緊急待避する」
 どこからか、首相を狙った弾丸がその胸に命中したのだ。
 アトリウム内に悲鳴があがる。それがきっかけだった。大勢の来賓、見物人たちが一斉に逃げ出した。ありとあらゆる方向に逃げまどう人々に、SPたちは行く先を阻まれて身動きがとれない。
 こういう時に威力を発揮する制服組の警官の出動が、総理側の希望でなくなっていたことは世良たちが預かり知ることのない事実だった。
「……っ!」
 慌てて犯人の特定を行おうとした世良は、堺の動きがおかしいことに気づいた。その背後をつけるようにしている石神を見つけ、その視線が一点に向かっていることに気がついた。人混みの中にいる堺の視線も、首相ではないどこかを見ている。
 その視線の行方を追う。
「……!」
 そこに、夕べ見かけた羽田の姿を世良はとらえた。
 全身がそそけだつような感覚を覚える。逃げまどう人混みの中、羽田は薄く笑いながら首相に近づく。
 そうして、懐から拳銃を取り出した。
 横顔には悟りを開いた坊主のような笑みを浮かべている。首相警護に当たっていたSP二人がまともに至近距離から向けられた銃に立ち尽くしている。
(まずい……っ!)
 さっき妄想の中で自分が殺した相手だ。だが、考えるよりも先に身体が動く。
 そして、目の前のことに夢中になるあまり、世良はつい背後の注意を怠っていた。
「……!」
 いきなり、腕にざっくりとアーミーナイフが突き刺さる。
 振り返ると、スキンヘッドのテロリストが「久しぶりだな」と笑っていた。
 激しい痛みが一気に押し寄せる。見れば、ナイフは腕を貫通し、肉を皮膚を突き破って切っ先が外に出ていた。
 そのまま殺到してくるスキンヘッドを、世良は横殴りで排除する。
 突然はじまったもみ合いに、また周囲で悲鳴があがった。なりふり構っているわけにはいかない。迷わず、首裏を手刀でたたき伏せて昏倒させる。
 腕に刺さったままのアーミーナイフを思い切って引き抜いて床に投げ捨てた。血で濡れた刃が真新しい床を汚す。
 スキンヘッドの拘束は後回しにして、銃を構えて羽田にねらいをつける。
 だが、アトリウム内は人々が入り乱れていてなかなか狙いを付けられない。
 堺や堀田たち、四係の面々もテロリストを排除しようと必死で、パイプいすをけ散らし、人々の間を縫って向かっているのが見えた。
 首相についていたSPの一人が銃弾から総理を守ろうとして立ちはだかる。
 羽田は全く躊躇せずに胸に向かって発砲した。
 また悲鳴が上がる。
 当然、こういう警護だけに防弾チョッキは身につけている。だが至近距離から胸に銃弾をを撃ち込まれれば、衝撃に気を失ってその場に昏倒してしまう。
 もう一人のSPも恐怖でなにやら叫びながらも壁となって立ちはだかる。
 やっぱり、羽田は躊躇なくSPを撃った。また一人、床に人が昏倒する。
 堀田が追いついた。声もなく両手を広げて浅倉の前に壁となって立ちはだかった。
 羽田はまた躊躇なく引き金をひく。
 堀田も胸にまともに弾丸をくらい、その場に大の字になって倒れてしまう。
 椿が、堀田の様子を見て横から大声をあげながら殺到した。羽田は冷静に真横を向き椿の胸にめがけてまた一発。今度は椿が床に転がった。
 次に駆けつけたのは赤崎だ。射撃が得意な赤崎は最初から銃を羽田に向けている。だが、全く間をおかず羽田の銃から赤崎に向けて発砲が行われる。
 目を見開いて赤崎がその場に倒れ伏す。
 羽田は瞬く間の内に、SP五人を銃で制圧していた。
 銃を使う者は、その引き金をひくことでなにが次に起きるのかをわかって相手を撃つ。想像力があるのなら、次の瞬間あるいは相手の命を永遠に奪うかもしれないと考える。考えればそこに躊躇という間が生まれる。
 だが、羽田には全くその間がなかった。
 まるで射的でもするかのように次々に相手の胸を狙って引き金を引く。
 世良は目の前で仲間が次々と床に転がって動かなくなるのを見ていた。
 今、テロリストと首相の間には動く壁は存在しない。

「覚えてるか?」

 羽田が浅倉にそう言うのが、世良の耳にはっきりと聞こえる。
 ようやく途切れた人波に、世良はマルタイの元に走っていく。スキンヘッドに刺された傷からぱたぱたと血が落ちる。
 激痛でどうにかなりそうだった。パイプいすの座面を飛び石のようにして駆けた。途中でバランスを崩して倒れ込む。
 必死で立ち上がってまた走り出す。並べられたいすをなぎ倒して走った。
 羽田が浅倉に向かって引き金を引く。
 だが、かちっという音がして弾は発射されない。数回、羽田は同じことを繰り返し、自分の武器が残念ながら弾切れになってしまったことを悟ったようだった。
 今度は倒れているSPの懐あたりから拳銃を探している。
 そこでようやく世良は浅倉にたどり着いた。呆然と立ち尽くすだけの首相を庇うようにして非常口から外に連れ出す。
 無防備な背中に羽田がSPの腰から奪った拳銃をつきつける。
(ヤバ……っ!)
 躊躇なく引かれたはずの引き金だが、また今度も弾は出ない。どうやら安全装置がかかったままになっているらしいと世良が銃の不発の理由に思い当たったのは、首相と共に外に逃れてからだった。
 鉄の扉に、銃弾が当たる音がした。羽田も不発の理由に気がつき、そして早くも解消してしまったらしい。
 首相は完全に毒気を抜かれている。
 無理もない。
 ついさっき自らが胸をペイント弾で撃たれ、目の前で自分の身代わりとなって五人もの人間が凶弾に倒れた。そして、自身に向けて実際に引き金が何度も引かれている。
 偶然拳銃に残弾がなかった。安全装置がはずれていなかった。
 総理の命がまだあるのはただの僥倖だ。
 衝撃に魂が抜かれたようで、足取りもおぼつかない。すぐ後をひたひたと羽田がつけてくるというのに、何度も転び足を止めさせる。
 世良は世良でテロリストに刺された腕の傷が深く、血が後から後からあふれているのがわかる。気を張っていないと貧血で持っていかれそうになる。
 だが、ここで世良が倒れれば総理の命は確実に失われることがわかっている。
 堺の顔が思い浮かんだ。
(あー、やっぱ俺、あなたのこと愛してます)
 一度も本人に言ったことのない愛の言葉がこういう時ばかり浮かんでくる。
 警護対象者が誰であっても、命を懸けて護る。
 世良は堺の元にきてからずっとそれを実践する姿を見てきている。ならば、自分も同じことをしない理由がない。
 堺がそうする背中を、心から愛しく思っている。
 自分も、堺が見た時に同じ気持ちを抱く背中を持っていたい。
 そう思った。
 闇を乗り越えられたのは、ただひたすらにそれがゆえだ。
(愛してますよ。本当に)
 首相がだらしなく転ぶ度に勇気づけて助け起こす。すぐそばに羽田が歩いて近づいてくる。
 羽田は射撃の訓練を受けているわけではない。さっき、安全装置の解除に手間取っていたことからもそれは明白だった。
 ある程度近づかないと無駄弾を撃つことになる。さっき何度か銃を撃っているからそれを警戒しているのだろう。
 確実にしとめるには近づいた方がいい。そう思ってむやみに発砲してこないのだと世良は思う。
 つまり、羽田はどうあっても浅倉を殺す覚悟でいるということだ。
 世良は浅倉を引きずるようにして連れていく。
 アトリウムから細長いロビーを抜け外に出る。あてがあるわけではない。とにかく羽田からできるだけ遠いところに総理を連れていくことしか考えていなかった。
 外に抜けると見晴らしのいい場所に出てしまった。
 ガラスでできた案内板をちらりと見て、進む方向を決める。
 十メートルほど離れたところまで迫ってきていた羽田が発砲する。弾はガラスを打ち抜いて粉々に砕いた。
 首を傾げたところを見ると、これは羽田的にはちゃんと当たるはずだったらしい。
(そんな遠くからで、射撃の訓練もしてないヤツの弾が当たるかっての)
 だがもっと羽田が近づいてそうしたらわからない。
 世良は浅倉を連れてさらに必死で遠くへと逃げた。
 音楽ホールの入り口に入り込む。足下は白い大理石になっていて、この記念館がどれほどの金を投資されてできているのかが伺いしれる。
「わあっ」
 また総理が足をもつれさせて転ぶ。助け起こしたところで、世良はようやく床に転々と落ちている自分の血を意識した。
 これではどれほど距離を稼ごうとも、自分の逃走経路を教えているようなものだ。羽田が全く焦った様子もなく世良たちの後を追ってこられた理由をようやく理解する。
「くそっ」
 ごまかしはきかない。
 世良ができるのは、きっと後から追いかけてきている堺が間に合うまで、総理を連れて逃げ回ることだけだ。
 世良は音楽ホールの中へと総理を引っ張っていく。
 使用されていない音楽ホール内は無人だった。今日は本来記念式典の後に記念館の施設を総理が視察して回ることになっていたためか、ホール内の灯りがともされている。
 世良は総理と共に通路を駆ける。
 背後で扉が開く音がする。拳銃の音が鳴り響く。座席の間に身を隠してやりすごす。
 だが、向かった方向にはステージがあるばかりだ。
 世良は素早く周囲を見回す。ステージの奥に非常口の灯りが見えた。
(あそこから……)
 少々危険だが、ステージの上から直接向かうしかルートはない。
(俺、絶対信じてますから……堺さん、来てくれるって信じてますから)
 惚れた相手に頼るのは本当は少し悔しい。だが、それでマルタイの命が守れるのならそれでいい、と世良は思った。
 ステージの上をもつれるようにして歩く。また、首相が足をもつれさせて転んだ。
 羽田はもう目の前だ。
 世良はとっさに浅倉の上に覆い被さった。そうして、羽田をにらみつける。
 羽田は静かな目をして世良を見ていた。世良を見てふと眉をひそめる。

「……どこかで会ったか?」

 世良の中にまたあの暗い日曜日が蘇る。
 一日たりとてあの日、心の中にできた闇が晴れたことはない。だが、その原因を作ったこの男は成長した世良を見分けることはできない。
 世良は唇をかみしめる。
 羽田に自分があの時お前が命を奪った夫婦の子どもだなどと、言いたくなかった。
「……どこかで会ったこと、あるよな?」
「昨日の夜、駅前広場で」
「なぜ、あそこにいた?」
 羽田は世良の応えに納得してはくれず、重ねて尋ねてくる。
「おまえこそ、なぜあそこにいた?」
 堺たちがようやく追いついてきたらしい。気配に気づいた羽田が会話を断ち切って、総理に銃を向けたまま警告する。
「止まれ! 銃をおろせ! 今すぐ引き金を引いたっていいんだ」
 堺は両手をあげて立ち上がる。どうやら、堀田たちも防弾チョッキに護られていたらしい。駆け込んできた時にちらりと顔を見ることができて、世良はほっとした。
「お前も銃を捨てて投降しろ、羽田」
 羽田は堺の顔を見とがめると「なんだ、あんたか」と苦笑する。
 世良は通路で両手をあげる堺を見つめる。
(なんで、堺さんがこいつと知り合いなんだ?)
 わずかだが重大な疑問だ。
 また、あの雨の日の暗い記憶がじわりと蘇る。
 羽田が世良の回想を断ち切るように言った。
「どけ。そいつは命をかけてまで護るような男じゃない」
「……これが俺の仕事だ」
 小さく短く、覚悟を告げる。
 それを聞くと、羽田の中の何かがゆらりとゆらめくのがわかった。たじろぐでもなく、ただゆらぐ。それから羽田はゆっくりと付け足した。

「そいつは人間のクズだ……そいつは俺に人を殺させたんだぞ?」
 世良の背後で総理が「違う!」と叫んだ。
「違う! お前が勝手に殺したんだ!」

(ああ……)

 世良の中にはあの日以来ずっと闇がとりついている。雨と悲鳴と血とで彩られた日の記憶だ。
 暗い雨の音がまた耳の奥で蘇る。
 ずっと忘れていた詳細な声までが再生されていく。
 笑顔満面で、その場にいる人々に強引に握手を迫っていた男は、今世良の後ろで震えている。
 雨の中最初に犯人に気づいたのは確か浅倉の秘書だ。
「そいつを取り押さえろ!」
 その声の後で母が、続いて父が刺し殺された。
 悲鳴と混乱。
 呆然として羽田が取り押さえられるのを見ていた。と、世良を護るように抱き抱えていた浅倉がにやりと笑う。
(どうしてこの人はうれしそうに笑っているんだろう?)と思った。
 そして。
「こんなはずじゃなかったんですが……念のため、待避しましょう」
「うむ」
(こんなはずじゃなかったら、どうなっていたんだろう)
 疑問が体の中で渦を巻いた。
 ふと気がつくと、そこに黒い学制服をきた人がたたずんでいる。
(もしかして、この人なら知ってるのかもしれない)
 わけもなくそう思った。
 そうして、世良は雨の中長いこと学制服の少年と見つめあっていた。

 ふいに、現実が戻ってくる。羽田の淡々とした冷たい声が世良をこちらに引き戻す。
「言い直すよ。こいつは、テロに屈しない政治家を演出するために。そんなくだらない理由のために、俺を殺人犯にしたんだ」
「ふざけんなよ?」
 世良ははっきりと、両親の敵と対面する。
「どんないいわけをしたって、実際にナイフを握って人を殺したのはお前だ」
 羽田の瞳がふっとゆるむ。それから何かに気づいたように顔をゆがませた。
「なんで、ナイフで俺がやったって……知ってるんだ?」
 世良は応えない。羽田の瞳が細くなる。何かに気づいたようだった。
「そうか……お前、あの時の子どもだな?」
 応えない世良の背後で、浅倉が「ひっ」と悲鳴をあげるのがわかった。浅倉もまた、世良が誰なのか気づいたようで、懸命に世良からも逃れようとする。
(これが、俺の護る相手か……)
 心の中に絶望が広がる。その絶望の闇を察したように、羽田が言った。
「俺たち、おかしな糸で結ばれているみたいだな。どけ……こいつを護る理由なんてお前にはなにひとつないだろう?」
 羽田が世良を説得しようと声を和らげる。
「お前がこいつを護ったって何の意味もないぞ? 俺が二十年塀の中にいたときと、今とではなにも変わってない。むしろ、今の方が悪くなってるかな? 二十年の間にこの国のトップはいくつも頭がすげ変わってきたんだ。そんな代替えのきくひとつを護ってなにになる?」
「じゃあ、お前も殺すんじゃねえよ」
 世良がそう言うと、羽田が笑った。
「理屈だな。だが……二十年は長すぎたんだよ」
 羽田は少し悲しげな目をして、引き金に手をかける。
 その時だった。
 ステージで羽田と世良が話し込んでいる間にステージ前まで移動していた赤崎が、羽田が拳銃を持つ手を撃った。
 羽田は拳銃を取り落とす。だが、復習に燃える羽田は尻のポケットからナイフを取り出すと、なおも総理の命を狙おうと立ち上がる。

 ぱんっ

 乾いた音がした。
 羽田の胸から血が吹き出る。見れば、堺が銃を構えていた。
 世良の前に羽田が倒れ込んでくる。息絶えかけながらもなお復習を果たそうとする手をつかんで、世良はナイフを取り上げる。
 今度こそ、羽田は地面に倒れ伏した。
「救急車を、早く!」
 叫ぶと、椿が慌てて駆けていく。
 堺が近づいてきて、世良を助け起こしてくれた。ナイフの傷を自らのネクタイで縛って止血を施してくれるのをじっとして受けていた。
「よくやった……」「はい」
 視線を交わす。
 と、その背後をまるで逃げるようにして総理がSPに連れられて出ていく。
「おい……君……」
 呼ばれて堺と世良は同時に振り返った。
「……すまなかったな」
 ぽつりと言い捨てて総理は出ていった。
 後には苦いものばかりが残る。どうしても残る。
(だけど、これが……俺の仕事だ)
 息ができないほど苦しい。だがそれでも、世良はミッションをやり遂げた。



 一ヶ月後、理事官の丹波が謎の自殺を遂げた。
 第一発見者がなぜか公安の達海だったため、庁内は一時騒然となったが、結局遺書もなく衝動的なものだろうという話に落ち着いた。
 自殺の現場になぜか職場に置いてあったはずのノートパソコンが完全にハードディスクごと完全に破壊された状態で残されていたとの情報もある。まことしやかに「丹波理事官は警護課の情報をテロリストたちに横流ししてテロをあおっていたらしい」という噂も流れたが、事実無根といつか絶ち消えた。
 石神は朝倉総理の一見以後ずっと不機嫌で、世良が近寄ることすらはばかるほどぴりぴりとしていたが、丹波の自殺以降は比較的落ち着いた。
 丹波の死と関係があるかどうかはわからない。
 世良のめまいは依然続いている。
 警察病院に、腕の診察を兼ねて看てもらいにいったが「この前より症状が進行しています。これ以上進行が進むようなら外科的療法などを検討していきましょう」と例によって淡々と女医は世良に告げた。

 変わったことと言えばそれくらいだ。

 世良は相変わらずいけすかない人間であることの方が多い警護の任務につく毎日だ。腕を吊っていたせいでしばらくは現場に出れなかった。おかげで黒田にマンツーマンで書類書きの特訓を受けたことがとにかく辛かった。

 その日はたまたま全員の帰り時間が重なった。そうなるともはや毎度の恒例で、これからみんなで食事に行こうということになった。
 堺も「仕方ないな。奢ってやるよ」と請け合ってくれたから、全員がご機嫌だった。
 その時のことだ。
 全員で乗り込もうとしたエレベーターの反対側から後藤課長が二人の見知らぬ男を連れて出てきた。
 とたん、ふわりとしためまいが世良を襲う。
 後藤はチームの他の連中を無視して、堺にだけ声をかけてきた。
「堺、ちょっといいか?」
 チームの連中に「後で追いつくから先に行ってろ」と促すと、堺は後に残った。
(……なんか、ちょっと)
 後藤の連れてきた男たちを見て感じためまいに何かを感じて、世良はそっとその場に残る。
 世良のことには気にした様子もなく、後藤はにこやかに堺に男たちを紹介している。
「堺、今度警護課に配属になる清川と、新しく警護課の理事官に就任することになった杉江くんだ」
 二人は堺に視線を移し、それから頭を下げる。その様子に満足したらしい後藤は「じゃあ、清川をオフィスに案内してくるから」と二人を置いて去っていった。
 後には、杉江と堺だけが残る。
 世良は少し離れたところから二人をじっと見ていた。
 先に口を開いたのは杉江だ。
「……お久しぶりですね」
「ああ」
(……知り合い?)
 その割には顔を合わせたタイミングでの反応はあまりにもよそよそしかったな、と世良は思う。
「……丹波先輩は、残念でしたね」
 つい最近自殺した理事の名前がその口からするりと出てくる。その違和感に世良はその場に釘付けになった。
「……仕方がないだろ?」
 堺が振り返った。そこに世良を見つけると、不思議な色をたたえたまなざしでぽつりと言う。

「大儀のためだ」

 その言い方が、あまりにもらしくなくて世良は思わず息をのむ。
 堺がじっとこちらを見ていた。
(今の……俺に聞かせようとした?)
 廊下の端と端で、二人はにらみ合う。

 世良の中にある現在の望みはごくごくささやかなものだ。
 SPになる夢は叶えた。
 今はそう、堺が束ねる今のチームでできるだけ長く仕事をしていたい。
 堺と共に人生を歩みたい。

 堺に「愛してる」と言いたい。

 やっと手に入れたこの場所をなくしたくない。

 だがもしかしたら、と世良は思う。
(もしかしたら、それは結構……難しい望み、なのかもな)
 堺と世良の間に横たわる距離は、思っているよりもはるかに果てなく遠い深いものかもしれないと、その時世良ははじめて思った。
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