【preview】いくら好きだと言われても

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 いくら好きだと言われても、俺だって譲れないものはたくさんある。
 こんな理由で九つも後輩の男とぎくしゃくするなんて俺のプライドが許さない。他のチームメイトに知られるのは最悪だと思うし、情けない。
 何よりも困ったことには、同じチームの同じポジションである以上、全く話さないというのは不自然だということだ。
 だから、世良には俺に話しかけるのは許可するが、チームメイトの前では一切俺に対しての気持ちを口にするな、匂わせるのもだめだ、と言った。
「絶対に堺さんに迷惑をかけたりしません!」と誓った世良は、以来有言実行を保っている。
 昼休憩になるとおばちゃんたちが用意しておいてくれるサーバーからコーヒーをカップに注ぐと、みんなから少し離れた自販機のコーナーに歩いて行く。世良もそれに倣ってついてくる。
 ベンチに座れば、当たり前に隣に腰を下ろす。
「……」
 ちらりと横目で見れば、期待に満ちた眼差しでこちらを見ている世良がいる。

 俺に何か言うことがあるなら、今言っちまえよ。

 そう思ったが、世良はいつもの平和そうなツラでさっきのアドバイスの続きを待っている。
 なんだそれ。
 元カノとのフッカツでも新規カノジョでも構わないが、それは俺に言って然るべきことじゃないのか? なんで、丹波から聞かされなくちゃいけないんだ?
 少なくとも俺は聞く権利はあるはずだ。
 お前は俺に少なからず迷惑かけたんだから、そういうとこはちゃんとしろよな。だから世良はいつまで経ってもダメなんだっての、わかってねえだろ。
 お前は俺をめちゃくちゃにする。
「……なんスか? 俺、顔になんかついてますか?」
 よほどじっと見ていたのか、世良が不思議そうな顔で訊ねてきた。
 何も思うところはないらしい。がっかりだ。そういうヤツなんじゃないかと思ってはいたけどがっかりだよ、世良。
 俺はそれでも年長者の余裕を見せることにする。世良がうまいこと俺を諦めてくれる方向に行きかけているのに、敢えて問いただしたりして期待を持たせたら、寝た子を起こすかもしれない。
 そんなことになったら逃げられなくなるかもしれないじゃないか。
 そうだ、このままそっとフッカツ愛とやらを応援して、事なきを得よう。
 平穏だったあの日に帰ろう。それがいいに決まってる。
「なんでもねえよ。それよりさっきの続きだけどな。お前、最後だけポジション取りが違ってたの気付いてねえだろ?」
「はいっ!」
 やけに素直だ。世良にしては二心なく、ただ純粋に上達を望んでいるということか。
 そこにあるのは純然たる師弟関係で、色気も何もない。
 前はもうちょっとこう、めんどくさい気配があったんだがそういうのはみじんもない、気がする。
 元カノとフッカツしたんだったらそもそもこっちもいろいろ構えなくてもいいっていうことか。
 そう思って間違いないんじゃないのか?
 カノジョとフッカツして、そろそろいろいろ真面目に考えようと思った結果、自分を向上させたいと願うのはごく自然なことだ。思えば最近の世良は世良にしては落ち着いてきた気がする。
 それもこれも、彼女のためか。そうなのか?

……そうなんだろうな。

 カラクリを知ったらバカらしくてたまらない。
 だが、そのことをふまえて冷静に考えてみれば、熱心に午前中の自分のまずいプレイについて分析をしている世良の中には、以前には確かにあった俺に向かうなんともいえないオーラがないように思う。
 俺に向かってはっきりと「俺の好きは、堺さんを抱きたいっていう好きなんです」と言ったのはそう前のことではない。
 まあ、若いってことはそういうことだ。三日前の一目惚れを忘れて今日はもう永遠の愛に目覚めている。箸が転んでも恋に落ちる年齢ってことだ。いちいちそれにまじめにつきあっていたらバカを見る。
 世良が正気に戻ってよかったよ。
 めでたく華燭の典をあげることとなったオトモダチに感化されてカノジョを作ったのならそれでいい。
 それでいい。
 俺は心なしかいつもよりも気合いの入ったダメ出しにかかる。世良がこてんぱんになってへこもうが、そんなのは知ったことではない。
 あっという間に落ち込んでいく世良に、俺は容赦なく罵声を浴びせた。
 ざまを、見ろ。
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